Mamiko Kikuchi

ベトナムを舞台にした映画


私は東南アジアの中では格段にベトナムという国が好きだ。
とはいえ訪れたのは一回きりだし、この国についてものすごく詳しいわけではないけれど、フランス領の名残のあるヨーロッパのベトナムの文化が混じり合った美しさが他の東南アジアにはない唯一無二の魅力でもある。
そんなベトナムだから、映画作品の舞台になるととてつもなく絵になるのだ。


もちろんその背景にあるベトナムという国が過去に背負った痛みも噛み締めながら、私たちはこの美しい国を見つめなければいけないのだけど、ベトナムの人々はそんな過去を胸の奥ににしまって、元気に生き生きと、今日も仕事に励む。
そんなベトナムは国も人もたまらなく素敵。
今回はそんな私の好きなベトナムの風土や、文化、そして歴史が詰まった三選をご紹介。
作品の共通点はないけれど、どれもヒロインがとてつもなく魅力的な私のお気に入りの作品たち。
美しいベトナムの風景と共に、魅力溢れるヒロインの演技を楽しんでもらいたい。

Mamiko Kikuchi

青いパパイヤの香り

公開年:1993年
製作国:フランス/ベトナム
監督:トラン・アン・ユン

おそらく私が生まれて初めて出会ったベトナム映画が多分この作品。
邦画にも、ヨーロッパ映画にも、そしてもちろんハリウッド映画にも無い瑞々しさと生々しさにドキドキしたのを今でも覚えている。
手を伸ばせばそのヒロインの肌に触れてしまえそうなカメラワークの中で、少女ムイはいつでも汗をかいていた。
ムッとするようなベトナムの暑さと、青々としたパパイヤの木に囲まれたお屋敷。
そんな中でムイは少女から大人になる。
そして、ムイの中で芽生えた恋心もだんだんと愛に変わっていく様子を丁寧に丁寧に見つめている。これといって大きな事件が起こるわけではない。でもそれも含めて心地良く感じられるのはきっと、監督がつくり上げた瑞々しい映像たちのおかげなのだろう。

Mamiko Kikuchi

ラマン愛人

公開年:1992年
製作国:フランス/イギリス
監督:ジャン=ジャック・アノー

この映画を語る時、「官能映画」としての認識している人があまりに多い事に驚く。
そりゃエロティックなシーンが出てくるのだから仕方ないのだけど、私はこの作品を極上のラブストーリーだと思っているから、純粋なラブストーリーとして評価されない事がちょっと悲しい。
愛人となった中国人の男を、差別的に見下しながらも身体では愛し合い、いつしか自分でも気がつかないうちに男を心でも愛していた事に気がつく少女。
原作者マルグリッド・デュラスの実体験だったからこそその感情は生々しく、老いた彼女が後悔を胸に、15歳の自分に囚われているのが分かるから切ない。
この作品の舞台となる1920年のフランス領インドシナの混沌とした美しい街並みと、2人が密会をする、サイゴンの街の雑踏のやかましい音が今でも忘れられない。

Mamiko Kikuchi

第三夫人と髪飾り

公開年:2018年
製作国:ベトナム
監督:アッシュ・メイフェア

川の清らかな水の流れも、渓谷に響く鳥のさえずりも、匂い立つようなお香と、美しく鮮やかなシルクのアオザイ。
彼女らの穏やかな日々の映像はまるで桃源郷のようでつい、うっとりしてしまうわけだが、これはベトナムのそんな美しさに隠された、ベトナム社会の闇の物語。
籠の鳥なら鳥らしく、なるべく豪華な籠の中に閉じ込められればそれは女の幸せなの?
全て矛盾だらけなのに、いつのまにかこの籠の中の生活をまるで満たされたかのように順応していく女たち。
自分が自分らしく生きられない世界にどんな未来を見るというのだろう。
矛盾が放置されたままに閉ざされた世界で少女の自我の目覚めを静謐に描きながら、ベトナムの男性社会の生きづらさを強く訴えかける作品となっている。