数あるモンスター映画の中で私が格別に好きなのが「ヴァンパイア」
人間とほぼ変わらない見た目だけど永遠の命と人間らしさを忘れてしまったその冷血さを持つ。その異様なアンバランスさと彼らの苦悩に惹かれてしまう。
人間には「愛」があり「限られた生」があるからこそ美しいのだと思うけど、それらがあるがゆえに「恐れ」がある。
しかしヴァンパイアにはそれらがないからこその「残酷さ」と「強さ」がある。
この残酷なほどの強さを携えて、人間の血を貪るその姿は生身の人間には到底真似できないエロティシズムすら感じるから、その神秘的で強烈な光のようなものに引かれてしまうのかも。
ここで紹介する何人かのヴァンパイアもそれぞれ全く異なる異様な光を放つ。
永遠の命への苛立ち、死の憧れ。
青白い肌で人間に苛立ち、そして憧れる彼らの世界を垣間見ることで、私たちはこの限りある生を慈しむことができるのかもしれない。
インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア
公開年:1994年
製作国:アメリカ
監督:ニール・ジョーダン
私はあなたで作られた。
私はあなたのおかげで蘇った。
全く違う景色を見せてくれるあなたを尊敬しながら狂おしいほどあなたを憎む。
あなたがいなきゃこの世で生きられない。
けれどあなたさえいなければこんな苦しみを抱えることなどなかったのだから。
妻を失い絶望の果てに意図せずして吸血鬼となったルイと、ルイを吸血鬼にしたレスタト。
2人の関係は親子であり、親友でもあり、そして恋人でもあるその奇妙な関係は観ている私の心をざわめかす。
ブラット・ピットの血の気のない悲しげな美しさと、トム・クルーズの憎々しいまでな冷血さこれを観てこの2人にならヴァンパイアにされて欲しいと思った女性が世界中にどれだけ溢れただろうか。
トムの起用を反対してた原作者が、作品を観たときに大絶賛したという彼の他の作品とは全く異なるヴァンパイアぶりも必見です。
ぼくのエリ 200歳の少女
公開年:2008年
製作国:スウェーデン
監督:トーマス・アルフレッドソン
一面に広がる北欧の冬の世界。
印象的なのは鮮明な血が広がる降り積もった真っ白な雪景色。
この映画ほど寂しさの感覚が後引くものはあっただろうか?
観る前はヴァンパイア版小さな恋のメロディーかと思っていた。 でも愛らしいヴァンパイア少女の妖艶な姿を観たいという下心で挑むと痛いめに遭ってしまうから気をつけたほうがいい。
毎日空腹を満たすためだけの獲物を捜し、罪悪感も愛も忘れて、明日のために生きている彼女は「死」に最も近い「生」。
ヴァンパイアの吸血行為はそれ自体がセックスを意味するといわれているがエリの吸血行為はそれとは違う。
じらすことなく、獣のごとく血にむしゃぶりつく。 エリにあるのは人間に対する冷酷さと無慈悲さのみ。
少年は、そんなエリの世界に捕らえられ、逃げられない。
時代に取り残されながら密やかに、残酷に生きなければならない少女と少年の気の遠くなるようなサイクルを思うと、絶望的な気持ちでいっぱいになる、そんな作品。
オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ
公開年:2013年
製作国:アメリカ/イギリス/ドイツ
監督:ジム・ジャームッシュ
オフビート感たっぷり。
ファンタジーなのだが、それでもジム・ジャームッシュならではダウナーな雰囲気がスタイリッシュな気怠さが漂う。
これはヴァンパイアの世界のアダムとイヴのお話。
このアダムは何世紀にもわたって死の音楽を作り出すミュージシャンでもある。
現代に溶け込んでひっそりと生き続けなければいけない彼らの苦悩がユニークに挿入されて、こうして観ていると「あぁーもしかしたらやっぱりヴァンパイアはこの世界のどこかに隠れているかも。」だなんて思わせてくれるリアリティもあったりする。
ジム・ジャームッシュはこれまでになかった現代のコマーシャルなヴァンパイアのラブストーリーを描きたくて、この作品を完成させるまでに7年を費やしたそう。
単なるスタイリッシュでクールなだけではない、たまにクスッとさせられる脚本も楽しみながら、他のヴァンパイア作品とは一味違った空気感を味わって見てほしい。
渇き
公開年:2009年
製作国:韓国
監督:パク・チャヌク
とにかく強烈!
30分ごとに展開が変わり、先が全く予測できずそのたびに感情をふりまわされる。
基本はエロスとグロ。
ラブストーリーにブラックな笑いを散りばめながら残虐なサスペンスも組み込んで、カオスの国へようこそ〜♪
もう観始めてしまったら後戻りできない。
苦悩の神父を演じたソン・ガンホの演技はもちろんだが、小悪魔なテジュを演じたキム・オクビンの演技がめちゃくちゃ魅力的。
影のあるワケあり系の女性から、性に奔放な官能的なイメージと変わり、やがて狂気のサイコパスへと変容していく様が同じ役柄とは思えない!
神父と出逢ったことで、死んだ魚のような目だったテジュが水を得た魚のように飛び跳ねて行く。
その存在はあっという間に主人公を凌駕するほどになってしまうのには驚かされる。
画面からでも血液が吸い取られそうなので、これから鑑賞する人は体調抜群な時に観てください。
ヴァンパイア
公開年:2011年
製作国:日本/カナダ
監督:岩井俊二
岩井俊二監督がほぼ海外キャストで魅せる異色のヴァンパイア映画。
破滅的で、少し奇妙な岩井監督らしいシークエンスは嫌いではないけれど、主人公を「現代の孤独なヴァンパイア」として美しく祀り上げるような描き方は正直あまり好きではないと思ってしまった前半。
しかし途中のレディバードとサイモンがヒルの毒を吸うエロティシズムを感じさせるシーンから、徐々にラブストーリーとしての輪郭が見え始め、その儚げに惹かれ合う2人の存在は羨ましいほど純粋で美しかったので気がつけば前のめりで画面に吸い付いていた。
木漏れ日の中でサイモンとレディバードが静かな森で彷徨うシーン、母親が白い風船に囲まれてピアノを奏でるシーン、マリアが窓辺でダンスするシーンなどはとても詩的で、いかにも岩井俊二らしい、幻想的な映像表現が光る作品。
ヴァンパイアというタイトルだが、これは絶望から生まれたラブストーリーなのかも。
万人受けはしないけど、余計なことは考えすぎず、ただ映像の中で彼らの孤独に寄り添えば、少しだけ彼らの世界を理解できるような気がしたラストでした。