Mamiko Kikuchi

フェティシズムに溺れる映画

フェチっていうととてもポップでユニークな響きなのに、「フェティシズム」の響きになったとたんにとても危険で秘めやかな音に聞こえてくる。
わたしはまだ何か特定の部位やモノに固執した事がないけれど、我を忘れて倒錯できる何かがあるって動物的で少し惹かれてしまう。
人格がフェティシズムをつくるのか、それともフェティシズムが人格をつくるのか・・・一体どっちなんだろう。

Mamiko Kikuchi

空気人形

公開年:2009年
製作国:日本
是枝裕和監督

空気を入れてもらう。するとみるみる身体が膨らんで、男たちは彼女を好きな形で愛で始める。
「私は空気人形、私は性の代用品」
ある日「にんげんのおんなのひと」になった空気人形は自らの足で歩き、笑い、そして恋をした。
わたしたちは世界に無秩序に散らばってるようで、ほんとはゆるく繋がっている。
けれどもそんな繋がりをあえて遮断して、代用品に癒しを求めるようになった人間たちと、身体いっぱいに愛する人で「生」を感じようとする空気人形との対比を見せられて、ちょっとだけ切ない気持ちになった。

Mamiko Kikuchi

薬指の標本

公開年:2004年
製作国:フランス
ディアーヌ ベルトラン監督

奇妙な標本ばかりが溢れている標本製作所で働く主人公イリスは、初老の標本技師に恋をする。
退廃的で、官能的な小川洋子ワールドがフランス映画と驚くほどマッチして、007/慰めの報酬でボンドガールを演じたオルガ キュレリンコの透明感のあるオールヌードや、静謐な標本製作所の映像が印象的。
標本技師はイリスに美しいヒールの靴を与え、それを毎日履いて欲しいと懇願する。
靴だけで表現される愛の物語はとてもエロティックで上品。
まるで彼の標本室の中に囚われてしまったような恐怖心と喜びが合わさったイリスの複雑なゆらぎが伝わってくるようで、いつ観てもドキドキしてしまう。

Mamiko Kikuchi

ラースとその彼女

公開年:2007年
製作国:アメリカ
グレイグ ギレスピー監督

トラウマで家族以外と話すことのできない青年ラースの恋人ビアンカはなんとアダルトサイトで売られていたリアルドール。
LA LA LANDでもおなじみのライアン ゴズリングが少しふっくらした輪郭と優しいタレ目の愛おしい瞳で、シリコン製のリアルドールを見つめるものだから、こんなに愛されるリアルドールのことがちょっと羨ましくなってしまう。
彼が世界とつながるためにはこのビアンカが必要で、彼を優しく見守る周りの眼差しも必要で、フェティシズムからもこんな風に温かいラブストーリーが生まれるんだから人間ってやっぱり面白い。

Mamiko Kikuchi

パフューム ある人殺しの物語

公開年:2006年
製作国:ドイツ/フランス/スペイン
トム ティクヴァ監督

 

匂いフェチって言葉はよくあるけど、その内容は様々。
香りは永遠でないから美しく、儚いからこそとても崇高な芸術のはずなのに、この物語の主人公ジャンは乙女の純潔の香りを永遠に閉じ込めようと人間の域を超えたグロテスクな行為を繰り返す。
フェティシズムは悪いことでは無いけれど、独りよがりに欲望だけを追い求め、節度を超えたその先にあるのは人類の終わり。世界の終焉。
どんなフェチ行為もあくまでもお互いの同意の元で・・・ね。

Mamiko Kikuchi

スイートプールサイド

公開年:2014年
製作国:日本
松居大悟監督

「ねえ、私の毛を剃ってくれないかな?」
毛が生えなくて悩むツルツル男子と毛深に悩む女子の青春ブルース。
コンプレックスって、他の誰かにとってはたまらなく羨ましいものだったりするけれど、それを秘密に分かち合える関係ってなんだかエロいよね。
純粋に毛深を悩む彼女との秘密の放課後に、だんだん妄想が膨らんで暴走して、ブレーキが止まらなくなってしまった彼の頭の中にちょっと笑ってしまった。
剃毛フェチなんて実際あるのかないのか分からないけれど、あまりに純粋にジョリジョリタイム一直線になってしまったピュアボーイの痛々しい青春を温かい目でしかと見届けてほしい。