Mamiko Kikuchi

行き過ぎた愛のおはなし


映画の世界では、もう無数の愛の物語が毎日のように生まれている。
ありきたりのラブストーリーも別に嫌いじゃないけど、私はやっぱ。危険な香りがする、『愛の向こう側』を描いた物語が気になってしまう。
これから紹介する五つの物語は、始まりから行き過ぎた愛を見せるどぎついものもあれば、気がついたら行き過ぎた愛に絡まってしまっているものもある。
人間はまともな皮を被っていても、誰もが変態とは紙一重。愛し過ぎて、愛し過ぎて、自分の知らなかった一面が顔を出さないとも限らない、だから愛は魔物なのだ。

Mamiko Kikuchi

悪い男

公開年:2001年
製作国:韓国
監督:キム・ギドク

チンピラの男ハンギが、一目惚れした女子大生ソナに恋をした。これは、愛する女を自分の生きる世界に沈めることでしか関わる事ができない、虚しい男の残酷な愛の物語。
相手をボロボロにして傷つけることでしか愛を伝えられないだなんて理解できない、いや、こんなの理解できるはずもない。
行き止まりに立たされた女は、追い込んだ男を憎むか、愛するしか道はない。
女の立場からしてみたら、ホント最後までけしからんお話なのですが、これ何となく分っちゃうかもって人どれくらいいるのかな?非常に興味あります。

Mamiko Kikuchi

ブルーベルベット

公開年:1986年
製作国:アメリカ
監督:デヴィッド・リンチ

ヘンテコな空き地に切り取られた耳。
それは、若い純朴すぎる青年にはあまりにディープすぎる別世界への入り口。
いつのまにか動き始めたトライアングルに本当の愛のかたちは見えなくて、それぞれが何か別の代用品を探している虚しさが浮遊していた。
独特できわどくて、エロティック。
適度な嫌悪感を与えながらも、引き込むような映像と音楽の強烈な印象で観客を掴んで離さない。
全てのバランスが絶妙に合わさって観る側の記憶にこびりつくような印象を残す実に独特な作品。
こんなディープな不思議の世界から目を覚ますにはしばし時間が必要かも?

Mamiko Kikuchi

私が、生きる肌

公開年:2011年
製作国:スペイン
監督:ペドロ・アルモドバル

インモラルで狂気に満ちたすごい映画。
愛する妻に裏切られ、娘からは拒絶され、挙げ句の果てに失うというあまりにも残酷な喪失感を埋める為の狂気がロベルを生かしている。
でもどんなに愛する者の顔とそっくりな肌をかぶせても、魂の本質は奪うことはできない。
マッドサイエンティストによるフェティシズム溢れた変態性のある映画という解釈ならばこれは、間違いなく気持ちの悪い映画なのだけど、
しっかりとしたミステリーサスペンスのプロットで、「愛の向こう側」の世界にそれなりに意味付けをしてくれる。
間違った愛の形は、虚しさが残るのみ。
それでも人は愚かにも異常な愛に溺れたがるのだ。

Mamiko Kikuchi

ノクターナルアニマルズ

公開年:2016年
製作国:アメリカ
監督:トム・フォード

静かな中にも不安感を煽るような緊張感のある作品で、とにかく映像美にもプロットにも細部までこだわった、映画らしい作品といった印象だった。

主人公スーザンの完璧なブルジョワの生活の中に、突然元夫エドワードから送られた小説の世界が入り込み、観ている私もスーザンとエドワードの深層世界を行き来する感覚に戸惑いつつも、グイグイとその物語に入り込んでしまう。
『愛か復讐か?』というテーマだが、私としては、これを一生残る心の痣になりそうなエドワードからのどぎついスーザンへの復讐だと感じてしまった。
愛の向こう側には愛ではなく憎しみだけになることもありえるのだ。

Mamiko Kikuchi

彼女がその名前を知らない鳥たち

公開年:2017年
製作国:日本
監督:白石和彌

醜く、下劣な男と、その男に養ってもらう嫌な女の織りなす最低で行き過ぎた愛のおはなし。
ここの登場人物ほどではなくても誰もがみんな下衆な裏の顔を持っていて、その裏の顔を使って平気で人を傷つける。
知りたくないけど、知らなきゃいけない人間のいやーな二面性目が白押しで、究極の愛のお話なのに逃げ出したくなるようなどぎつさがラストまでとめどない。
この映画で特に印象的なのはご飯のシーンで、出てくる食事ごどれもこれも不味そうで極めつけな十和子と陣治の家焼肉のシーンなんかはかなりゾッとした。
シーンとして切り取ればなんともない風景なのに、やっぱり2人は普通じゃないんだと確信した。